脳深部電気刺激療法 (Deep Brain Stimulation) Q & Aこのページを印刷する - 脳深部電気刺激療法 (Deep Brain Stimulation) Q & A

脳神経外科へ 機能的脳外科とは頭痛・めまい 脳卒中...「あたり」認知症・物忘れ 脳深部電気刺激療法(Deep Brain Stimulation)

 

Q:脳深部刺激療法でパーキンソン病は治りますか ?

A:残念ながら、治癒させる効果や、進行を遅らせる効果は確認されていません。あくまでも、パーキンソン病に伴う症状を軽減し、日常の生活をしやすくするための治療とお考え下さい。

 

Q:どのくらいの期間、効いてているのですか ?

A:原則として、刺激を続ける限り刺激による効果は続きますが、パーキンソン病の進行に伴い、治療効果が減弱したように見えることがあります。

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Q:脳深部刺激療法はどんな症状に効きますか ?

A:脳深部刺激は、パーキンソン病の振戦・固縮・ジスキネジア・すくみ足等の運動障害に有効で、日内変動のもととなっている「薬が効きにくい時間帯(off期)」を短縮する効果もあります。また、パーキンソン病以外の手足の震え(本態性振戦)やジストニアにも有効です。

 

Q:電極は一生入れておいても大丈夫ですか ?

A:電極の改良が進み、ずっと埋め込んだままで問題ありませんが、胸の皮下に埋め込む刺激発生装置にはバッテリーが内蔵されていますので、数年に一度のバッテリーの交換が必要です。これは、局所麻酔をした上で、数十分の簡単な処置で交換できます。全てのシステムが体内に埋め込まれますので、入浴やスポーツなどには何ら差し障りはありません。

 

Q:他に不都合な点はありますか ?

A:心臓のペースメーカーと同種の機械ですので、埋め込んだ後は原則としてMRI検査を受けることができません。また、ジアテルミー(温熱利用法)を受けることもできません。(※ 埋め込み後のMRIにつきましては、各施設で検査可能かどうかをそれぞれ検討しています。各施設にご相談下さい。)

 

Q:費用はどのくらいかかりますか ?

A:この治療は、医療保険の適応となっています。現行の保険制度では「高額医療」に該当しますので、高額医療費自己負担限度額を超える金額については、申請後、高額医療費として後で支給されます。自己負担限度額は所得やかかった医療費により異なります。 ただし、パーキンソン病の患者さんで、ヤール重症度分類で3度以上の方々は、特定疾患医療費の援助の対象となっているため、自己負担は殆ど発生しないようです。医療費や公的援助等につきはしては、当院ソーシャルワーカーにご相談下さい。

 

パーキンソン病の重症度分類(Hoehn & Yahr 分類)

Stage I 症状は一側性で、機能障害はないか、あっても軽微。 
Stage II

両側性の障害がある。

姿勢保持の障害はない。

日常生活、職業は多少の障害はあるが行いうる。 

(※手足の震えや固さが両側にみられる状態)

Stage III

立ち直り反射に障害がみられ、活動は制限される。

しかし、自力で生活が可能である。

(※歩行時の転倒しやすさが加わった状態) 

Stage IV

重篤な機能障害を有し、自力のみの生活は困難となる。

しかし、支えられずに歩くことはどうにか可能。

(※歩行はどうにかできるが、日常生活全般での介助必要な状態) 

Stage V

立つことが不可能となり、介護なしにはベット、車イスの生活を余儀なくされる。

(※1日を通して、ベット上、あるいは車イスでの生活) 

 

 

Q:脳深部刺激療法って、どんな治療ですか ?

A:概略と歴史

 

脳深部電気刺激療法:

この治療は、脳の中心部の大脳基底核と呼ばれ部分に、直径1.3mm程度の太さの柔らかい電極を埋め込んで、体内(主に前胸部の皮下)の刺激装置から電気信号を脳に送って治療する方法です。一言で言うと、病気のために脳の中で起こっている不均衡な状態を、刺激によってバランスのとれた状態に近づける治療といえます。刺激する部位は、患者さんの状態により、視床・淡蒼球・視床下核という3つの場所から選ばれます。

 

治療の歴史:

パーキンソン病や本態性振戦などの外科治療は、日本の脳外科の創世記の頃からすでに行われていた治療で、30年以上の歴史があります。ただ当時は、現在使われているような埋込型の脳刺激システムがなかったため、凝固針を使って脳の一部分を直径数mmの範囲で破壊する治療が行われていました。この方法では、小さい範囲とはいえ、脳の一部を破壊するわけですから、目標点から数ミリずれただけで、不快な症状(後遺症)が残ってしまうことがありました。とても高度な技術を要する治療といえます。そこで、「破壊せずに、刺激で同じ効果を得られないか」というアイデアのもとに脳深部刺激システムの改良が重ねられ、現在使われているような装置が完成したわけです。不快な症状が出ても、刺激療法であれば、「刺激を止める」或いは「刺激の仕方を変える」ということで、装置を埋め込んだ後でも対処できます。

 

正確に電極を設置する:

刺激による治療とはいっても、脳の中に電極を入れてゆくわけですから、正確さが問題となります。皆さん、「カーナビ」という車の位置情報を正確に伝えてくれる器械をご存じですね。地図が画面に出てきて自分の車の位置 (緯度・経度) を教えてくれるというアレです。カーナビは、3つの人工衛星から送られてくる信号をとらえて、その衛星からの距離をはかるシステムといえます。3つの点 (衛星)からの距離が決まると、空間的な位置関係が決まってきます。つまり、地図上に自分の位置が描けることになります。

同じように、ヒトの脳でも精密な地図(脳図譜)が作られています。MRI・CT・脳室造影写真などを使って脳の3つの点(正確に言うと二つの点と垂直面)を決めると、この地図に基づいて、脳深部のどこにでも正確に電極を進めることができるわけです。

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当院では、現在、MRIに基づく座標計測と、微小電極記録という生理学的方法を併用して、より正確に刺激電極を留置するようにしています。